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コラム

自主性の罠? ― 創造性は基本習得の後に生まれる

 

自主性の罠とは

 

ビジネスにおいては一見正しそうな“常識のウソ”というものが存在します。そのひとつが「自主性の罠」と言われるものです。自主性を尊重し部下にやさしくしすぎると、かえって自主性が育まれない。基本的なこともできないのに我流のやり方に走ってしまい、ちゃんとしたスキルを身につけないまま成長も遅れてしまう。その結果、組織の業績にとってもマイナスになることが間々ある、という指摘です。

 

人財育成においては、“本人の自主性に任せるのがベストなやり方だ”という考え方が、当たり前のようにまかり通っています。とはいっても、自分目線で考えてみると、あまりうるさいことを言わずに任せてほしいし、自主的に考え行動することが人間としての摂理に沿ったものであるように感じます。何がいけないのでしょうか。

 

自主性だけでは組織は回らない

 

先に答えを簡単に伝えておきましょう。「全員の自主性に任せていたら組織が回らないから」です。厳しい言い方かもしれませんが、社員全員が健全な自主性を持ち、会社が求める目標達成に向けた正しい行動ができるわけではありません。性善説に基づいた本人の自主性に任せれば何とかなるという発想は、美しく感じるかもしれませんが、残念ながら現実的ではありません。

 

けれども、本人に考えさせるべきだという“自主性信仰”ともいうべきものがかなり浸透しているので、任せてはいけない場合も良かれと思って任せてしまい、悲劇(喜劇?)を引き起こしているのです。自主性に任せて成功した例ももちろんありますが、その裏にあるあまたの失敗例が表に出てくることは多くはありません。

 

本来は組織として目指すべき方向を明確にし、そのためにやるべきことを具体的に示し、部下に実行させる。うまくいかなければ、しかるべきポイントやタイミングで軌道修正する。そうすることが組織の論理に従った正しい育成というべきものです。

 

基本的なことすらできない新人やまだ能力が十分とはいえない若手の自主性に任せることは、まっとうな責任感をもった上司であれば怖くてできません。

厳しい言い方をすれば、成果につながるやり方(= プロセスの見える化)を明確に示さないまま、いきなり自主性に任せるのは精神論の域を出ておらず、マネジメントや人財育成を放棄していると言われても仕方がありません。

 

当たり前の話ですが、全てを社員の自主性だけに任せていては組織は回りません。“自主性の罠” ――― 真面目でマスコミが喧伝する情報を素直に受け入れてしまう人ほど、陥りやすい常識のウソなのでくれぐれもご注意ください。

 

創造性は基本習得の後

                                                                                         

あえて逆説的な言い方をしてきましたが、もちろん自主性を否定するものではありませんし、しかるべきステップを経て自主性を発揮してもらいたいというのが、本音であり目指すべきゴールでます。

そのステップとは、まず基本をしっかり学び、経験を通して自分のものとしてマスターすること。それができてはじめて、上司からも安心して任せられるようになります。その後に、こうすればもっと良くなるのではないか、自分ならこうしたいというビジネスで使える真っ当なアイデア = 自発的な創造性が生まれてきます。

 

最低備えておくべき基礎やリテラシーに裏付けされない思い込みは自主性とは呼びません。現実を知らない単なる思いつきです。根拠のない思い込みだけではビジネスの世界では成果を出せません。組織を動かすこともできません。

 

それまで行ってきた組織的に認知されたやり方には、それなりの歴史や背景があります。試行錯誤を経ながら最適されてきた理由や経営の意図があります。

しかし、成功体験に基づく慣習にこだわりすぎると、変革の妨げになることも事実です。(イノベーションのジレンマ)

さらに、先が見えず常に進化が求められる今の時代は、流行りのやり方やビジネス理論も手を変え品を変え次々に出てくるので、どれが自分の組織に合うのかの検討~見極めも簡単ではありません。

 

           (図1)創造性は基本習得の後

 

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基本の習得 = プロセスの見える化

 

前節で述べた基本習得のために必要なのが、「プロセスの標準化と見える化」です。目標を効率的に達成するためにはどうすればよいのか? 今のやり方のままでよいのか? 常に課題意識を持ち思考を停止させずに、各人が改善の工夫を行いながら上のレベルをめざし、「自主性や創造性を発揮するための基本」となります。

 

プロセス見える化の本質をよく理解してない人がよく感じる誤解のひとつに、「プロセスはマニュアルのように人を型にはめてしまい、自主性を削いでしまうのではないか?」があります。

プロセスには「やるべきことをしっかり行う」という一面があるのは事実ですが、それはそれまで組織で培ってきた効率的なやり方だからです。やるべきことをしっかりこなし、自主性・創造性を発揮してもらうための基本 = 正しいプロセスの習得です。

このあたりについては、別なコラムプロセスは人を型にはめてしまうのか?に詳しく書きましたので、ご興味があればそちらもご覧になってください。

 

4つのマネジメントを使い分ける

 

人財マネジメントにおいては、管理者の性格や好みにより、細かく管理するする「マイクロマネジメント」か、任せっきりにする「放任主義」の二つのどちらかに陥りがちです。

しかし両極端な一つの手法だけで運営できるほど、組織は単純ではありません。前者では結果はそれなりに出るものの、「厳しい人」だと陰で部下から非難されがちです。後者では「やさしく人」だとは言われるかもしれませんが、必ずしも結果は伴いません。

 

ケネス・ブランチャードとスペンサー・ジョンソンの唱える“状況対応型リーダーシップ”の考え方では、適応能力とやる気により社員を4つのタイプに分け、「良いマネジャーとは柔軟性があって、4つのマネジメントスタイルを使いこなせる人だ」としています。4つのスタイルとは、指示型・コーチ型・支援型、そして委任型4つです。下の図2を見てください。

 

(図2)状況に応じてマネジメントスタイルを使い分ける

img src=”managementstyle200126” alt=”状況に応じてマネジメントスタイルを使い分ける”/

 

          (『1分間マネジャー』『1分間リーダーシップ』をもとにフリクレアがまとめ直したもの)

 

状況対応型のリーダーシップ理論では、縦軸: 援助的行動と横軸: 指示的行動2軸で考えます。

「援助的行動」とは、部下の自主性を尊重しながら、上司が行うサポートのことです。仕事を進めるにあたり、部下の意見を聞きその行動をサポート。褒めたり励ましたりしながら、仕事をうまく進められるように支援することです。

一方の「指示的行動」とは、上司の指示と監督のもと、部下にやるべきことを行わせることです。上司が仕事の内容を、どのような方法で、いつまでに行うのかを明確に部下に示し、さらにその行動をウォッチしながら確認、修正することを指します。

 

そして、適応能力とやる気のレベルに応じて、社員を「指示型」「コーチ型」「支援型」「委任型」の4つのタイプに分けます。それぞれを簡単に説明すると、

 

指示型 

――― 経験がまだ少なく基本的な能力は低いが、情熱とやる気のある人が対象となります。(例えば、新人や中途入社など)

 この段階では、上司は具体的で細かい説明・指示・命令を行い、プロセスの進捗確認や仕事の達成度をきちんとウォッチ、コントロールしなければなりません。まだ自主性に任せるわけにはいかないので、行動計画や方向性、状況判断についても上司に逐一確認、相談してもらいます。基本的に部下は上司に指示されたことを、正確に迅速に実行することが求められます。

 

コーチ型 

――― 仕事にも慣れてきてある程度の仕事はできるが、まだすべてを任せるレベルにはない成長過程の社員のイメージです。(例えば、入社35年目の若手)

マネジメント方法としては、上司は引き続き説明・指示・命令を行い、プロセス進捗から達成度を見守り確認しますが、部下自身の自分の意見やアイデアも出させ耳を傾けます。状況判断や意思決定の一端に参加させるようにして成長を支援します。一方的な指示ではなく、コミュニケーションを取りながら業務を進めていきますが、最終決定や責任を行うのはまだ上司です。

 

支援型 

――― 仕事の基本的な能力は十分備えていて、あまり細かい指示は必要ありませんが、判断が難しい仕事、あるいはレベルが高い仕事については、まだ完全に任せるわけにはいかないという段階です。

上司はあまり細かい指示はしませんが、ゴール達成のために部下の自主性を尊重しながら、ポイントを決めてチェック。必要に応じて鼓舞激励あるいは援助し、認めるべき点はちゃんと褒めて正しい方向に導きながら、本当に任せられるだけの実力をつけさせるための援助を行います。部分的に状況判断を任せますが、最終決定や責任は依然として上司にあります。

 

委任型  

――― 能力とやる気の両方を備え適切な状況判断もできる「 任せられる人財」です。監督したり援助したりしなくても、自分の頭で積極的に考え自発的に仕事ができるタイプ。健全な自主性や創造性を持ち、正しい目標を設定しその達成に向けて自らを動機づけることができます。支援型との違いは、本人の仕事やミッションに対する想いと自発性によるコミットメント(責任感)の強さにあります。

マネジメント方法としては、基本的には任せて特殊・例外事項のみ相談にのるという対応になります。この段階にきてはじめて、上司は意思決定と責任を部下に任せることになりますが、この段階でもすべてを任せるわけではありません。

 

ポイントを説明しましたが、人をマネジメントする方法は一つではない4つのマネジメントスタイルを使い分けるにも記載していますので、よろしければそちらも覗いてみてください。

 

人財マネジメントには、誰にでもどんな場面でも万能薬のように通用する唯一のやり方はありません。現代の経営においては、すべてを誰かに任せっきりにするということもありません。本人の能力・性格やおかれた状況を見ながら、4つのマネジメント方法を臨機応変に使い分ける必要があります。

また、同じ相手でもあっても仕事の内容やミッションの難易度によって、マネジメントスタイルを使い分ける必要があります。若手でも任せて大丈夫と判断できることであれば成長のために任せてみる。ベテランであっても慣れない業務や新しいチャレンジで、ちょっと危ないなと感じれば逐一報告させる。

 

どんな相手でも細かく管理したり、任せっきりで何も管理しないという単純なやり方ではなく、「人・状況・内容をみて法を説け」ということです。マネジメントのやり方はその相手・状況・内容によって柔軟に変えていくべきなのです。

そうすることで人財が順調に成長し任せることができるようになります。自主性の罠に注意しながら、局面に応じて4つの人財マネジメントを使い分けることが、人財マネジメントのあまり知られていない正道なのです。

 

参考文献:

『第1感 最初の2秒のなんとなくが正しい』(マルコム・グラッドウェル)

1分間リーダーシップ』『1分間リーダーシップ』(K・ブランチャード、S・ジョンソン)

 

 

今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

プロセス標準化・見える化を活用した人財マネジメントにご興味のある方はこちらからご連絡ください。

 ⇨ コラムへのご意見やご感想は info@flecrea.com 

 

 ()フリクレア 代表取締役

山田和裕


(2021年01月26日)

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