自主性を育てる仕組みづくり
前回は「自主性の罠」の問題を指摘し、自主性を発揮してもらうためには「まず基本習得が先であること」。そして、社員の能力によって「状況対応型リーダーシップによる4つのマネジメントスタイルを使い分けること」を紹介しました。(関連コラム: 自主性の罠? ― 創造性は基本習得の後に生まれる)
今回はさらに発展させて、健全な「自主性を育てるための仕組みづくり」について考察していくことにします。
まず最初に、自主性を育てるための仕組みを構築する際に、おさえておくべき5つのポイントを順番に整理すると、
(1)目的や趣旨をしっかり伝える → (2)指示を具体的にする → (3)モチベーションに配慮する → (4)プロセスを見守る → (5)自主性を損なわない評価制度
という流れになります。
順を追って5つのポイントを説明していきますが、本題に入る前にそもそもの自主性の定義をはっきりさせておいた方がよいと感じます。自主性の解釈は各人の頭の中に漠然と存在していると思いますが、広辞苑の定義によると、自主性とは「他からの干渉を受けないで、自分で決定して事を行うさま」とあります。
この定義を素直に読むと、他人に干渉されずに何でも自分の判断で勝手にやってもよい、という風にも解釈できます。でもそれでは組織的な仕事は回らないので、ビジネスにおいては、自主性を次のように定義し直す必要があります。
「仕事における自主性」は、“会社や組織のルールに則って、上司や同僚の指示やアドバイスに従いながら、言われたことを何も考えずにやるのではなく、自分の役割や立場に応じて、許される範囲内で創意工夫をこらすこと” と。
こうしておかないと、そもそも「自主性を育てる」という考え方自体が、ある意味“干渉”になるので自己矛盾を含むことになります。また、このように自主性の定義を明らかにするだけで、(関連コラム)「自主性の罠? ― 創造性は基本習得の後に生まれる」で述べたように、自主性の罠にはまってしまい、うまくいかないという一面の説明にもなります。
さて、前置きが長くなりましたが、本題の自主性を育てる仕組みづくりの流れに戻りましょう。
(1)目的や意図をしっかり伝える
以外に感じるかもしれませんが、目的や趣旨を説明し、目指すべき方向やゴールを共有することが、まず大切なポイントであることを強調しておきます。「目的は何なのか」「全体の中でどういう貢献ができるのか」「どこを目指しているのか」「なぜこういう指示を出すのか」「なぜこういう仕事が必要なのか」 ――― 仕事の全体像、背景や意図を示しながら説明することが考えている以上に大切なのです。
ところが現実的には、実際の現場では面倒くさいのか、そもそも目的の重要性を理解していないのか、目的や趣旨の説明を行わずに指示だけを出すケースが多いものです。
このステップを端折るとどうなるか? 「自分が組織の歯車のように感じる」 「自分の存在意義は何なのか」というような哲学的な問いや疎外感に苛まれることになります。ただやることを指示するだけでは、部下は思考停止に陥り、単なる単純作業者になってしまうということです。自主性を求めながら言うことを聞くだけのイエスマンを育てるようなものなので、心理学的には矛盾することになります。
学生時代を思い出してみてください。歴史でたいくつな年号を暗記したり、実社会で使うことのない方程式を覚えさせられたり・・・ 「こんなことを覚えて人生でどんな意味があるのだろうか?」と多くの人が疑問に感じたはずです。
自慢にはなりませんが、私も予習・復習、宿題をやらない不真面目な学生でした。「なぜ勉強をしなければならないか」を教えてもらえれば、もっと身を入れて“自主的に”勉強したのでないかと今でも悔やまれます。
学校の勉強がつまらなかったのは、この目的や趣旨・意義をちゃんと不落ちするような説明をしないまま、頭ごなしに自主性に反する単純作業=記憶学習を行わせようとしたことが大きな要因のひとつです。
「そういう理不尽な勉強に耐えた生徒は従順なので会社で使いやすいのだ」というひねくれた主張もありますが、そうであれば最初から「うちは言うことを聞く素直なタイプを採る」と明言し、不都合な自主性を持った社員を求めなければよいだけの話です。
(2)指示を具体的にする
その次に、できるだけ具体的に部下に指示を伝えます。各人のビジネスリテラシーが違うので、「これぐらい当然わかるだろう」という日本人的な漠然とした指示ではいけません。誤った自主性(根拠のない思い込み)にもとづく誤った行動を誘発するからです。
指示の具体的な「内容」に加えて、いつまでにという「期限」、具体的にどうやってやるかの「やり方」。さらに、進捗を確認するための「途中報告」のタイミング。それと、「チェックポイント」も示します。自己裁量で創意工夫できる「裁量範囲」まで示せれば完璧です。
最後に本人がどの程度わかっているか確認するため、「質問」がないか尋ねます。よくある「特にありません」という反応で安心してはいけません。逆に要注意です。本人の中で咀嚼できていないので、何がわかっていないかがわからないから、 質問できないのです。
その場合は、すでに示した具体的な進め方を自分の言葉で反復させながら、突っ込んだ質問をします。それでしどろもどろになるようであれば理解が十分とは言えません。本人もよくわかっていないことが自覚できるので、すぐには理解できなくても自ら考え始めます。言わずもがなですが、その後も進捗確認を行いながらフォローしていく姿勢が上司には求められます。
繰り返しになりますが、部下が指示内容からずれることなくミッションを遂行できるように、可能なかぎり具体的にかみ砕いて、任せっきりにせず、ポイントでチェックしながらサポートするのが自主性を育みながら人財育成を行う基本になります。
(3)モチベーションに配慮する
社員に指示の目的に沿い、自主性を持って目標達成に取り組んでもらうためには、やる気を維持・向上させるためのモチベーションマネジメントも欠くことができません。動機づけ、コミュニケーション、フィードバックが主要な要素になりますので、ひとつずつみていきましょう。
【動機づけ】
いちいち動機づけしなくても、自主的に動いてくれる“自己実現型社員”になってもらいたいというのが会社側の願いですが、全員にそれを求めるのも現実的ではありません。
モチベーション理論は心理学の見地から多くの研究がなされている深い世界なので、しっかり書こうとすると長くなってしまいます。このコラムだけでは収まりませんので、「心の報酬でモチベーションを支える」「自主性と自己実現」といった切り口で次回以降改めてコラム化したいと思います。
ちなみに、フリクレアでは自主性を育て自己実現をめざす社員を増やしたいと考えているので、「欲求段階説」「期待理論」「X・Y・Z理論」の3つのモチベーション理論をベースにした、独自のモチベーションマネジメントをコンサルティングを行う際の基本的な考え方にしています。
●欲求レベルは、“〔現代版〕仕事の欲求5レベル〟をベースとする。
●期待理論におけるモチベーション維持を、“進化したプロセス評価〟で支える。
●X理論、Y理論、Z理論の考え方を現代に合うように修正して、社員の欲求レベルに応じて、マネジメント手法を柔軟に使い分ける。
【コミュニケーション】
社員の自主性を育てるには、組織風土の良し悪しが大前提となります。そもそも、自主性を許容してくれる会社なのか? ヒエラルキーのはっきりした強権的な組織で自主性が育つわけがありません。
自主的な発言・行動をしやすくする雰囲気が基本だという当たり前の話です。意見提案やアイディア出しを積極的に推奨し、後押しするためのコミュニケーション活性化の仕組みも工夫しなければなりません。
勇気を出して自主性を発揮しようとしても、上司や同僚などに気軽に相談できる環境が無ければ、なんだかんだいっても否定されてしまい、自主性の芽を摘んでしまうことになります。そうならないように、組織文化をしっかり現実視し、行動や発言を認め受け入れながら自主性を育てる空気を醸成していくことが肝要になります。
【フィードバック】
社員が自主的に取り組んでいるプロセスや努力して出した成果に対して、上司からの承認やフィードバックが無かったり、ちゃんと評価されないと自主性は徐々に損なわれていきます。 特に指示しっぱなしで何のフィードバックもないのは最悪です。人は見てもらえないのが一番辛いので、まだ成果が出ていなくても、きちんとプロセスが踏めていればその点を認める必要があります。
とはいっても一挙一同をチェックするとマイクロマネジメントに陥るので、そのために事前にチェックポイントを決めておきます。ほめる/ほめられるポイントを明確にしておくということです。
全て自分で考えて進めていける社員ばかりではありません。うまくプロセスが進んでない時は、横に座って「もっとよくするためにはどうすればよいか?」と問いかけたり、「こうするともっと良くなるのでは?」とヒントを与えたりしながら、一緒に絵を描きながら考えていくことが効果的です。
具体的なフィードバックについては、この後の(4)プロセスを見守る(5)自主性を損なわない評価制度 で詳しく説明します。
(4)プロセスを見守る
(関連コラム)「自主性の罠? ― 創造性は基本習得の後に生まれる」でお伝えしたように、本人の自主性に任せるだけでは、組織が求める「仕事の自主性」は育ちません。「自主性を育てたいので、仕事の細かいやり方には口出ししない」という誤った常套句を口にする上司も少なくありませんが、良い人を装いながら部下を育てられない放任主義(無責任)になりがちなので注意が必要です。
仕事の指示をした後は、本人の判断とやり方にすべてを任せてしまうのではなく、ポイントポイントで部下の行動=プロセスをチェックしなければなりません。
もちろんプロセスが順調に進んでいれば、特に余計なことを言う必要はありません。しかしプロセスの進捗が滞っている場合は、それを指摘し改善を促すのが上司の仕事です。
部下はそれなりに考えて自分では正しいと思っている場合が多いので、上司が客観的に指摘し正しい方向に行くようサポートしないと危うくなります。放っておくと、主体性を発揮するどころか思い込みによる誤ったやり方で、脱線したまま向上心を失い戻れなくなるケースも出てきます。
このように、仕事の結果だけでなく、これまでは個々の社員の属人的なやり方で仕事が進められ、ブラックボックスになっている途中のプロセスを見える化して、正しいプロセスがきちんと行われているかをチェックしながら業績拡大につなげていく手法を“プロセスマネジメント〟と言います。
自主性を育みながら人財育成を行うためには、プロセスマネジメントによる行動チェックは欠かせません。
そして、プロセスマネジメントを行いながら社員の自主性を育てるためには、管理者クラスが的確な評価やフィードバックを行えることが大前提になります。
だめなパターンとしては、部下の自主的な行動に対して強権的になったり、上司自身の偏った考えを押しつけてしまうと、単なる受身の作業仕事となるため、自ら考えることを放棄し、自主性は失われてしまいます。
よいパターンとしては、社員の自主性を育むための愛情を持った声掛けやフィードバック、自ら考えさせるような問いかけを行うことで、自主性は継続されます。そのための管理者としてのマネジメント力向上、とりわけ上司自身によるプロセスマネジメントの本質理解と実践が部下の手本となるため非常に重要になります。
プロセスマネジメントというと、部下にやらせるもので上は関係ないという勘違いをしている人に時折出会いますが、勘違いも甚だしいです。上司が実践していないことを、部下が自主的にやることはありません。部下の自主性を育てる前に、上司自身で模範を示しロールモデルとなることが、古より伝わる最善の育成方法のひとつです。
(5)自主性を損なわない評価制度
(3)モチベーションに配慮する で述べたように、自主性を育てるといいながら人事評価制度がアンマッチな場合、自主性も損なわれることになります。それまでのせっかくの苦労が水の泡です。
前述したように社員が目標達成に向けて努力しても、上司から認められなかったり、給与や賞与、昇進といった人事評価で報われない場合、無力感に陥りやる気=自主性はなくなります。そうならないように、自主性を損なわない人事評価制度を構築することが非常に重要になります。
不公平な結果だけを評価する誤った成果主義や、抽象的で判断基準のはっきりしない従来型の評価制度ではだめです。自主性を育てたければ評価制度もそれに合ったものにする。当然のことですが、人事評価は給与と直結していてすぐにはいじれないという場合があるので、組織が目指したい方向とアンマッチのまま放置されてしまっていることも少なくありません。
コロナの最中、メディアはジョブ型雇用をプロパガンダとしてしきりと推していますが、これまで失敗した職務制度の焼き直しなので、自主性を育てる役目は到底期待できません。(ご興味ある方はこちらもどうぞ → ジョブ型雇用はWithコロナの時代の正しい選択なのか?)
成果につながりやすいできる社員のやり方を標準化・見える化したうえで、結果だけでなく途中のプロセスを評価する〝プロセス見える化マネマネジメント〟が強力な解決案となります。このコラムで挙げた自主性を育む仕組みの(4)プロセスを見守るためのプロセスマネジメントと(5)自主性を損なわないための人事評価を融合させたプロセス見える化マネマネジメントが、効率的に結果を出し創造性を発揮するための基礎(標準プロセス)を習得させ、自主性を持った人財を育成しながら業績改善という結果を出すための処方箋になります。
プロセス見える化マネジメントについては、フリクレアが得意とする営業分野を中心に、また回を改めて詳しくお伝えしたいと考えています。
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
自主性を育むために必要なプロセス標準化・見える化にご興味のある方は こちらからご連絡ください。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2021年02月25日)