有効営業時間がどれくらいあるかご存じですか?
11月のコラム「営業支援システム活用法に関する日経フォーラムのコメントを紹介します」では、日経MJフォーラム【営業変革を成功に導く、『営業支援システム』活用法】の基調講演を行った時に寄せられた営業変革に関するお悩みの声を紹介しました。その中で出てきた「有効営業時間」という考え方について関心を持たれた方々からご質問やお問い合わせをいただきましたので、今回はそのポイントを深掘りしてみることにしました。
“有効営業時間”はたったの10~20%
営業というと「外に出てお客さんと会っている時間が多い」というイメージがあると思いますが、お客さんと実際に会って結果につながる商談をしている時間は考えている以上に少ないというのが実態です。実際にSFA/CRMでデータを取ってその傾向をわかりやすく表したのが図1です。
実際にお客さんと会って、ヒアリング、プレゼン、条件交渉といった結果につながりやすい商談をしている時間のことを“有効営業時間”といいます。有効営業時間はだいたい平均で15%くらいです。10~20%くらいの幅に、業界・業種を問わず、おもしろいくらいキレイに収まります。実際 営業がお客さんと会っている時間はこんなに少ないのです。
では、いったい何に時間を取られているのか?
では、残りの80~90%の時間、営業は何をしているのでしょうか。いったい何に時間をとられているのでしょうか。これは会社や組織によって異なりますが、お客様向けの資料作成、社内向けの報告(作成)や契約関連などの事務作業、クレーム対応、社内会議などが多いようです。
「喫茶店あたりでさぼっているんじゃないだろうか?」と疑う人もいるかもしれません。もちろん、喫茶店で休憩をしている時間がないわけではありませんが、それが本質的な問題ではないのです。
ちなみに、有効営業時間は、業種や担当エリアにもよりますが、多くても40%程度です。移動時間や必要な社内会議、最低限の事務処理や報告などもあるので、20%を超えていればいい方なのです。
有効営業時間として測るべきもの
有効営業時間には、商談の進捗を進めるために必要な電話やメールのやり取りも含みます。Withコロナの時代ではZoomなどのWEB会議も加わりました。
しかし、移動時間、提案作成などは有効営業時間には含みません。移動時間自体は結果につながらないからです。移動時間が多いからといって、受注売上が増えるわけでありませんよね。
また、提案作成も基本的には含めないようにしています。理由は顧客の要望をよくヒアリングしないまま、自分の思い込みだけでパワーポイントを何十枚も作成してしまうことがあるからです。たった1枚のスライドに何時間もかけてしまう凝り性の人がどの組織にもいるはずです。
有効営業時間にどこまで含めるかについては異論・反論はあると思いますが、「お客さんの顔を見ながら、声を聴きながら課題や要望を聞くことが、結果につながりやすい」という事実がベースにあるのです。
精密機器メーカーの事例
実際に有効営業時間を測って業績改善につなげた事例を紹介しましょう。
ある精密機器メーカーの営業部では、競合との競争が激化し製品単価も下落傾向であったため、そのままでは予算達成が難しい状況にありました。
そこで対応策を話し合ったところ、「どうも営業が社内にいる時間が多い気がする。実績に結びつく本来注力すべき顧客接点活動に使えている時間(= “有効面談時間”)が少ないのではないか?」という仮説が浮かんできました。
試しに有効面談時間を計測してみたところ、なんと就業時間のたった10%しかないことが判明。原因としては、クレーム対応や事務作業が多いため、社内にいる時間が多くなってしまっていたのでした。
この結果に驚いた会社では、特に18%もの時間を取られていたクレーム対応を営業部から切り離し、サポート部門で責任をもって対応する仕組みに変えました。また、事務作業でも13%の時間がとられていたため、社内のバックオフィス部門にその業務を移管して営業の負荷を減らしました。
こうした抜本的な業務改善の結果、余った時間を本来の営業活動に振り向けることができ、以前は10%しかなかった有効面談時間を30%強にまで増やすことができたのです。
一方その反動で、クレーム対応を移管されたサポート部門にかかる負担が大きくなったため、負荷軽減と効率化を目指し、業務プロセスの本格的な見直しを開始しました。
営業力強化の前に営業の負荷を減らすことが成功の秘訣
営業力強化という話になると、どうしても訪問件数などのKPI目標を設定したりする攻めの営業の話に走りがちなのですが、その前に本来の営業の仕事(大切なプロセス)に集中できるよう、業務の効率化を図り営業担当の負荷を減らすという、生産性向上の視点も重要です。
「受注売上をあげろ」「ターゲット顧客への訪問を増やせ」「優良案件数を増やせ」とはっぱをかけても、事務処理やクレーム対応など、本来注力すべきこと以外の業務に手が取られている場合、そのボトルネックを取り除かない限り、営業担当は仕事量が増えるばかりで、そうしたくても有効営業時間を増やせないのです。ブレーキをかけながら、アクセルを懸命に踏んで前に進めと言っているようなものなのです。
このように現場の営業現場は雑務に追われて忙しくしています。本部からの事務的な指示なども増えて、実態は限界に近い状況なのです。
営業強化など新たなことに挑戦する場合は、勝ちパターンの見える化だけでなく、業務効率化のための見える化も並行して(理想的には、先行して)検討しなければなりません。
すべての営業組織に共有する課題ですが、営業強化の方にばかり目を向けてしまい、見落としがちな点なのでこの点を強調しておきます。
以上、有効営業時間の考え方とその効用、そして増やすための秘訣について説明してきました。ご自身の会社の営業員が、いったいどういうプロセスに時間を取られているのか、一度データを取ってみることをおすすめします。わかりやすいので、見える化を始めるのにはとても良い例だと思います。
「本来の営業に使えている時間が、予想以上に少ない」ので皆さんきっと驚かれるはずです!
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2020年12月25日)