ネガティブ思考に負けないプロセス思考
ネガティブ思考を振り払うキラーフレーズ
「人間ひとりが1日に思考する回数は約6万回で、95%は昨日と同じことを考え、そのうち8割はネガティブな思考をしている」という説を前回のコラムで紹介しました。(「ネガティブ思考の罠 ~ 思考停止に陥るな ~」)。
人間はネガティブ思考を繰り返すのが自然だということです。放っておけば、自分を信じるのが難しくなります。すると、正しいと信じることを続けられなくなってしまいます。
では、ネガティブ思考に負けないためにはどうすればよいのでしょうか?
弱気になった時にネガティブ思考を振り払うために、誰でもできる簡単なことがあります。自分を奮い立たせられる「ポジティブでシンプルな決め言葉」(キラーフレーズ / 呪文のようなもの)を持ち、苦しくて自分に負けそうになった時は、その言葉を繰り返すというやり方です。
車いすテニスの国枝慎吾選手であれば、苦しい時には「俺は最強だ!」という言葉を何度もつぶやくそうです。
書き出すことも有効です。頭の中で考えると堂々巡りになり、ネガティブ思考のループから抜け出せません。書き出すことで「思考の見える化」ができます。すると第三者的に冷静に見れるので、意外と大したことがないような気がしてきたりします。
ネガティブ思考に打ち勝つための処方箋 ~ プロセス思考 ~
繰り返しになりますが、ネガティブ思考に頭の中を支配され、そのうち努力することをあきらめ、何とかしなければと漠然と感じながらも、昨日と同じことを繰り返すのが人間の性(さが)です。
できない理由を見つけるのは簡単です。しかしそこで思考停止せずに、何とかできる方法を探す。思いついたことをネガティブ思考で否定せず、自分ならやれると、ポジティブ思考に切り替えてやってみる。頭で考えるだけでなく、実際行動しやってみることで、必ず何か変化が起こります。
もちろんそれですべてがうまくいくほど世の中は甘くありません。しかし、ダメでも工夫して改善したり、やり方を変えたりして、あきらめずにヒントが見つかるまでしつこくやってみることです。かすかでも光が見えてくれば、次の道が開けてくるものです。
そんなポジティブ思考を支え、実践に活かすのが“プロセス思考”です。
ネガティブ思考に負けないように、目の前の小さな目標を設定する。達成のためにやるべきことを明確にする。そして淡々と繰り返してやり抜くことで、少しずつ自信をつけていく。このサイクルを繰り返すことが、ネガティブ思考に打ち勝つ処方箋のひとつです。
不安に打ち勝つ言葉の力 ~ 世界の国枝はどうやって苦境を乗り越えたのか? ~
言葉や表現は違いますが、スポーツ選手はプロセス思考を実践しています。
サッカーの本田選手は「準備(プロセス)がすべてだ」と言います。スポーツに限りませんが、「準備が成否を分ける」というのはよく語られることです。
野球のイチローの「試合前のルーティン」も有名です。ルーティンを大切にするのは、決まった動作を行うことで不安や緊張を排除して、プレーそのものに注力する狙いがあります。
二人に共通するのは、事前準備をすることで不安を取り除き、やるべきことはやったのだから大丈夫という自信を生み出す効果です。
ただ凡人と違うのはその徹底度です。「そこまでやるのか」というレベルまで一流はやり切っています。
ここでは車いすテニスの国枝選手の例を取り上げます。
車いすテニスのグランドスラムで、歴代最多通算50回優勝。東京含めパラリンピックでも3度の金メダル。数々の金字塔を打ち立て、「どうして日本からはテニスのトッププレイヤーが育たないのか」と聞かれ、「日本には国枝がいるじゃないか」とジョコビッチに言わしめた世界のレジェンド国枝。
そんな順風満帆に見える国枝選手でも、人知れぬ苦境や挫折があったそうです。どうやってその苦しい状況を乗り越えたのか? そのヒントは、「ポジティブ思考」と「自分自身を奮い立たせる言葉」にありました。
国枝選手は試合前に不安を感じたり、試合中に弱気になった時は、「オレは最強だ!」という言葉を思い出し何度も繰り返すそうです。
例えば、試合前には必ず鏡の前でこの言葉を叫び、勝利のガッツポーズをする自分を思い描く。弱気な時のサーブは、ダブルフォルトがよぎり失敗しがち。そんな時こそ、不安を吹き払うために声に出す。試合中いつでも見えるように、その言葉をラケットに貼っていました。
そうやって打つと、本当に“最強のサーブ”になるのだそうです。普通の試合の何倍もの重圧がかかるパラリンピックでも、この言葉に支えられたと言います。
言葉にすると陳腐かもしれませんが、逆に言うと、試合の場で複雑なことはできません。「シンプルに繰り返せる言葉で不安を振り切り、短い時間で自分の心を整えるだけで、実際に良いプレーができる。強さの秘訣は、決め言葉とルーティンで、良い意味での自己暗示をかけることにあったというわけですね。
願望ではなく断定
ところで、この「オレは最強だ!」というフレーズは、どういう経緯でいつ頃から使うようになったのでしょうか? きっかけは、オーストラリア人メンタルトレーナーであるアン・クインのアドバイスだったそうです。
当時の国枝選手は、世界のトップ選手との差はメンタル面にあると感じていました。そこで、国枝選手はどうしたら世界一になれるメンタリティを持つことができるか尋ねました。
国枝: 僕は世界一のテニスプレーヤーになれると思いますか?
コーチ: あなた自身はどう思うの?
国枝: 世界一に“なりたい”。
コーチ: 世界一に“なりたい”じゃなくて、自分が世界一だと“断言する”ところから始めましょう。
「オレは最強だ!」のフレーズは、このようなやり取りから生まれました。
クインコーチと出会った当時の国枝選手は世界ランク10位そこそこの選手でしたが、彼女の教えに従い「オレは最強だ!」と鏡の前で毎朝言い聞かせ、潜在意識に刷り込む日々がスタートすると意識が変わり、その年の大会を次々と制覇。
クインコーチとの出会いからわずか10カ月ほどで世界1位へとかけ上がることができました。
国枝選手自身の言葉を引用すると、「勝ち続けるたびに、オレは最強だって本気で思えるようになって、自信をもってもっと良いショットを打てる、という好循環になっていきました」。この言葉から「 ポジティブ思考がもたらす結果の好循環」が見て取れます。
「ポジティブでシンプルなキラーフレーズを決めて繰り返す」「ポジティブ思考がもたらす結果の好循環」。 こんな風に書くと、精神論っぽい印象が残るかもしれません。
次回はその心理学的根拠である“アファメーション”のもたらす効果を紹介しながら、不安を取り除く自分を奮い立たせるキラーフレーズの見つけ方と実践ポイントについて解説します。
(参考サイト)
王者は「コトバ」で作られる! 車いすテニス国枝慎吾選手に学ぶメンタルハック https://www.ugokasu.co.jp/labo/articles/mental-hack/
全豪11度目Vの国枝慎吾、メンタルトレーナーが明かす“五輪金メダル秘話”「毎日、何百回も『オレは最強だ!』と言う練習をさせた」https://number.bunshun.jp/articles/-/851782
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2023年10月25日)