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コラム

初心者向け vs 本当に役立つ本 どちらがお好み?

 

初心者向けの本しか売れない?

 

 新しい本を出したことは2月のコラム(『営業の正解』― 新しい本を出版しました)でご報告しました。おかげさまで重版となりましたが、本を執筆する中で、ずっと心の中にひっかかっていたいたことがあります。

「同業からバカにされるような本を書いてください」。本を書くにあたって編集担当から言われた言葉です。

 

その真意は、「同業にとっては常識的なことを、知らない人にわかりやすく丁寧に書くことが大切」ということです。出版社の視点から見方を変えると、「難しい上級者向けは売れないので、売れやすい初心者向けの本を書いてほしい」というわけです。

 

出版社の仕事は本を売ることです。売れる本の傾向を追求するのは当然のこと。そのために、どういう本が売れるのかトレンドを常に注視しています。本の中身以外にもタイトルや帯など一言一句や細かいレイアウトにも気を遣い、少しでも売れる本になるよう日々努力を重ねています。

 

その実売データ分析から、「玄人好みのハイブローに振ると売れない。初心者向けの本の方が売れる」という経験則があるそうです。レベルの高い本があまり売れないのは、読者数が限られるからです。こういった裏付けがあるので、売れる可能性の高い読者層の多い本を好む出版社側の気持ちも当然理解できます。

 

本当に読者が求めているものは?

 

とはいえ、自分も読者の一人として読む側の気持ちに立つと、別な疑問もぬぐえません。

「本当にそうなのだろうか? もっと本当に仕事に役立つ実戦的・本質的な内容を求めている読者も必ずいるはず。広く浅い読者ばかり狙うのは、本物を求める読者をないがしろにしているのではないだろうか」。

そう考えると、本を出す側の偏った視点による読者不在の固定概念のようにも感じ、改善の余地を探りたくなります。

初心者向け vs 本当に役立つ本 どちらがお好み?

 

   例えば営業本であれば、読者数は初心者より、2年目以上の若手~中堅~ベテランの方が多いのは明白です。初心者は営業を始めて間もない人数だけだからです。

すべての初心者は、仕事を続けるにつれ経験を積み成長していきます。成長レベルに合わせて、新しい課題にぶつかり、知りたい内容がレベルアップします。

 

その答えを求めて、まずは周囲の上司や先輩にアドバイスを求めるわけです。ところが残念ながら、満足のいく答えはなかなか教えてもらえません。

聞かれた方も体系立てて教えられたことがほとんどないので、よくわかっていないからです。何となくモヤっとしたことしか教えてもらえないので、仕方なく本を中心とするメディア媒体にその答えやヒントを求めることになります。

 

彼らの悩みは、現実的で実戦的です。結果ばかりを求める組織の場合、結果を出せない営業に対するプレッシャーはそうとう厳しいものです。大げさに言えば、営業マンとしての首や人生がかかっています。

薄っぺらい初級者向けの内容では、とうてい満足できるはずがありません。単なる精神論や自己啓発書を超えた、営業で結果を出すための本当に役立つものが求められるわけです。

 

出版社と読者の意識のズレ

 

ところが、そういったレベルの本はいまだに多くはありません。前述のように、まず、出版社が売れないと思っているから、あまり世の中に出ていないのです。

また、編集者自身は営業に詳しいわけではないので、初心者向けでないと自分が理解できないという問題が根本にあります。

 

同業にバカにされる内容や初心者向けばかりでは、そこそこの売行きは期待できても限界があります。その他の本物志向の読者のニーズを満たせないので、マーケットも広がりません。実際のところ、営業本は以前に比べて売れなくなってきているそうです。

目先の結果を追うあまり、出版社自身が自分で自分の首を絞めていることにもなります。目先の結果主義の典型的な罠にはまっているわけです。

 

この固定概念に固まってしまうと、次のような負のスパイラルから抜け出せなくなります。

<本当に役立つ営業ノウハウを知りたい → でも、初心者向けの本しかない → 初心者以外の読者層を満足させる本が少ない → だから、初心者以外には営業本が売れなくなる→ マーケットが縮小する>。

 

キャリアアップを目指す若手と書店の減少

 

特に、今の若手であるゆとり世代・Z世代は、会社に頼らずキャリアアップしていきたいので、本当の実力をつけたいと考えています。

若手向けといっても、初心者向けに囚われているようでは、ニーズを誤る可能性があります。出版不況の一因として、コンテンツレベルの画一化、幼児化や進化の遅さも指摘されています。

 

2010年に15,314あった全国の書店数は、2021年度は8,642店とほぼ半分近くに減少しています。このままの傾向が続けば、理論的にはそう遠くない将来に、書店は消滅してしまうほどの衝撃的な右肩下がりの直線的現象です。

(注)アルメディア・文化通信社提供2020年度データ、および、日販提供データ『出版物販売額の実態』(2022年版)の内容をフリクレアで加工したもの

 

書店が減っていく傾向が明らかな状況下では、従来の発想ばかりでは座して死を待つばかりです。厳しい言い方かもしれませんが、そろそろヒットしたタイトルの柳の下のドジョウ狙いばかりでなく、本質的な読み応えのある本も求めているマーケットの変化を敏感に察知し、方向の軌道修正を図ることに真剣に向き合う時期にきているのではないでしょうか。

 

初心者レベルには飽き足らずさらに上を目指す

 

初心者向けの読者層は確かに存在しますが、普通の読者はそれに飽き足らず、自己成長・キャリアアップ・人財育成のために、さらにその上のレベルを目指すのが自然です。

 

初心者向けの代表例は、基本マナー、精神論、セールストーク・雑談力・フットインザドアなどのテクニックものです。

精神論やテクニックも大切です。しかし、現場の営業で本当に求められているのはそこではないのです。こういった手っ取り早そうな表面的な部分に本当の答えはありません。

 

営業の本質は、顧客との信頼関係を築き、課題や求めるもの(真のニーズ)を知り、それにあった解決策を提供することです。そのために基本的な質問や要望に、スピーディにポイントをはずさずに応えることです。

 

レベルの高い本も売れる傾向も出てきている

 

2月のコラム『営業の正解』― 新しい本を出版しましたでも触れましたが、読者のニーズがよりレベルの高い本にシフトしてきている兆候も見られます。

これまでの古い常識に疑問を呈する、科学的な考え方やロジカルな営業、エビデンス重視の本へのトレンド変化が起こっているのです。

 

アマゾンで営業本のカスタマビューが多いものをチェックすると、例えば『THE MODEL』『sale is』『無敗営業』といった本が目につきます。これらの本を見ると、これまでの常識とは違った傾向に気づきます。

特徴はこれまで売れないとされていた、英語の横文字や、自社が提供するサービス広告的な要素も含まれていることです。各種メディアでインサイドセールス、セールイネーブルメントなど、日本人が弱い新しい横文字・輸入ビジネスモデルを紹介していることも背景にあるかもしれません。

 

私の前著『営業プロセス見える化マネジメント』も、すでに発刊から7年経っていますが、真剣に見える化に取り組みたいニーズは確実にあるため、細々とですが売れ続けています。いまだにこういった営業マネジメントを詳しく書いた本はないということから、有難いことにこの度新装改訂版の発行も決定しました。

 

これからの営業はコンサルティング型にシフト

 

背景としては、今の営業は、コンサルティング型にシフトしていることもあります。営業を単なるモノ売りと考えてしまうと、つまらない仕事のように感じるかもしれません。しかし、顧客の課題解決するコンサルティングと見方を変えると、営業はクリエイティブでやりがいのある顧客からリスペクトされる仕事になります。

 

とはいっても、コンサル型営業人財の育成は簡単ではありません。やり方が整理されておらず、体系立てて論理的に教えることのできる会社はほとんどないからです。

基本マナーを教え、精神論を注入したあとは、自助努力に任せるというのが、過去50年進歩していない日本の営業の現実なのです。

こういった変化に対応できる人財を育てるためのヒントや答えが求められているということです。

 

本質的な知見を身につけ生き残るために

 

「初心者向けのやさしい内容」vs「本当に仕事に役立つ内容」というテーマは、置かれた立場や見方によって答えが変わってくると思います。

初級者・中級者・上級者向け、もちろんすべて必要なのでしょう。問題はどの読者層向けが売れやすいのかという現実的なハードルです。

 

読者目線だけでなく、売り手である出版社のおかれた厳しい状況を考えると、答えは簡単ではなさそうです。理想と現実の狭間で揺れ動きます。

個人的には本物志向の読みごたえのある本を好みますが、軽くサクッと読める本が一般的には好まれるのも事実のようです。

 

 しかし、営業に限らずビジネスが全般的に顧客課題を解決するコンサル型にシフトしている、という傾向から目をそらすことはできません。顧客の課題も複雑化し、要求レベルも上がっています。

こういった変化に対応し、生成型AIなどに仕事を奪われないように、流行りに振り回されない本質的・普遍的なビジネス力を習得できるような本を読み続けたいものです。

 

皆さんのお好みはどちらでしょうか?どうお考えになるでしょうか?

 

今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

自分の組織の「営業の正解」を見つけたい、暗黙知だらけのプロセスを見える化したい方は こちら からご連絡ください。

 

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()フリクレア 代表取締役

山田和裕


(2023年04月25日)

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