普及ラインとキャズム ― プロセス主義®をどうやって浸透させるか(1)
プロセス主義®を組織にどう浸透させるか
組織においてプロセス見える化やプロセス評価などの「プロセス主義®」を推進しようとすると壁に突き当たることがあります。それは「プロセス主義®の本質をすぐ理解できる人間は少ない」という壁です。
プロセス主義®の大切さに気づき本質を理解した上で実行に移せるのは、イノベータータイプの人間です。プロセス主義®は、営業や人事分野におけるイノベーションともいえるものなのです。官僚的な保守派や慎重な現状維持派にも理解され、世の中で当たり前と思われるレベルまで浸透させるのは簡単ではありません。
ちょっと話が横道にずれますが、組織で何か新しいことを始め変革にトライしようとすると必ず壁が邪魔をします。このコラムではプロセス主義®を例にストーリーを展開しますが、プロセス主義®をITツール(SFAやCRM、テレワーク用のチャットツール)や新しいマネジメント法と読み替えてもらっても本質的には同じことです。
プロセス主義®もしょせんツールのひとつです。新しいツールの本質を本当に理解して、課題解決に活かすために真剣に取り組める人間はまだそれほど多くはないのが現実です。
本題に戻りましょう。プロセス主義®を組織の中でどう浸透させるかについては、組織文化とも密接に関係してくるところであり悩ましいところですが、〝普及率16%のラインとキャズム〟や〝社内浸透度を高めるためのシェア理論〟の考え方が参考になります。壁を超えるための基本となる考え方や実践法をシリーズでお伝えしていきます。
普及率16%のラインを超える
1962年に当時スタンフォード大学の教授だったエベレット・ロジャースが提唱した「イノベーター理論」(『イノベーションの普及』|Diffusion of Innovation)では、新商品購入に対する消費者の態度をもとに、購入の早い順から次のように5つに分類しました。
①イノベーター(革新者)(2.5%)
②アーリーアダプター(初期採用者)(13.5%)
③アーリーマジョリティ(前期多数派)(34%)
④レイトマジョリティ(後期多数派)(34%)
⑤ラガード(最後の採用者)(16%)
表現が英語の直訳調で直感的ではないので、別名、テクノロジー・マニア(おたく)、オピニオンリーダー(ビジョナリー)、実利主義者(慎重派)、保守派(懐疑派)、伝統主義者(因習派、採用遅延者)のような意訳や呼び方もあります。
このうち、①イノベーターと②アーリーアダプターの 2つの層を合せた16%を超えた段階で、イノベーション(新しい技術や製品、考え方)は急激に普及していくとし、この16%の層にいかにアピールするかがポイントだとしました。これが“普及率16%のライン”と呼ばれるものです。
キャズムが勝負の分かれ目
イノベーター理論が提唱された約30年後の1991年に、ジェフリー・ムーアは『キャズム』(Crossing the chasm)で、新しいもの好きの②アーリーアダプターと普通の人々③アーリーマジョリティの間には、深い溝のようなものがあるとし、これを〝キャズム〟と呼びました。ちなみに、キャズムとは直訳すると大きな割れ目という意味です。
また、①イノベーターと②アーリーアダプターで構成される市場を「初期市場」。③アーリーマジョリティ(実利主義者)以降、④レイトマジョリティ(保守派) ⑤ラガードからなる残りの市場を「メインストリーム市場」と区別しています。
そして、新しい製品が全体の1/3である「初期市場」に留まらず、残り2/3の普通の人々(③実利主義者や④保守派)などで占められる「メインストリーム市場」にも広く普及し成功するためには、このキャズムを超えられるかどうかが分水嶺(勝負の分かれ目)になるとしています。
さらに、このキャズムを這い上がるためには、新しいものそのものに興味があるわけではなく、それを使って確実に成果を上げたいと考える安定思考を持つ③実利主義者や④保守派に受け入れられるようなマーケティングアプローチが必要だとしています。
社内マーケティングの必要性
この考え方を応用すると、プロセス主義®を組織内で浸透させるためには、まず、組織の16%の層に働きかけ共感と理解を得て、導入の社内コンセンサスを形成する必要があるということです。
その後、実利主義者の理解も得て社内で広げていくためには、「プロセスの見える化がどう成果につながるか」をわかりやすく説明すると共に、「社内政治も含めた十分な説明と説得(社内マーケティング)を行うことが必要になる」と解釈することもできます。
以上、プロセス主義®を組織に浸透させる上でまず基本となる、「普及ライン16%とキャズム」を意識することについて解説しました。この2つの考え方だけでも、このコラムの読者には十分かもしれませんが、さらに論旨に厚みを持たせるために、次回は「ランチェスター理論を応用した社内浸透度を高めるアプローチ」についてもお伝えする予定です。
参考文献:
『イノベーションの普及』(エべレット・ロジャース)
『キャズム』『キャズム2』(ジェフリー・ムーア)
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2022年01月25日)