大事なことはめんどうくさい?
楽にデータ入力したいという幻想?
プロセスの見える化は、ITツールとセットにして導入すると相乗効果が期待できますが、SFA/CRM入替や新規導入の相談を受けていると、「現場に負担をかけずに入力できるような何かいい方法はないか?」という要望を聞くことがあります。現場思いのやさしそうな話にも思えますが、はたして本当にそうなのでしょうか?
この後詳しく説明しますが、入力率を上げることがITツール活用で最初に出くわす壁です。担当者としては頭を悩ますところなので、気持ちはわからないわけでもないのですが、今の技術では入力の負荷を下げることには限界があるのが現実です。
大事なことはめんどうくさい
スタジオジブリの宮崎駿監督の名言に「世の中の大事なことって たいていめんどうくさい」というものがあります。パッと聞くと後ろ向きの言葉のように感じますが、その真意はどこにあるのでしょうか。
たしかにできることならめんどうくさいことはやらずに、できるだけ楽をしながら仕事を進めたい気持ちは誰にでもあります。そう、「めんどうくさい」という壁が、何かを成し遂げるための行く手を阻むのです。
めんどうくさい3つの壁
例えば、SFA/CRMなどのITツールを活用してプロセス主義®の徹底や浸透を図る際には、①見える化がめんどうくさい ②入力がめんどうくさい ③データ分析がめんどうくさい という3つの壁が存在します。
(導入前の壁)
①見える化がめんどうくさい
「プロセスの見える化はめんどうくさい」と感じる人が少なからずいます。自分で感じている 課題意識でなく、組織から与えられた受身の仕事だと、心底身に染みていないのでその必要性を心の底から理解できないのです。
「現場に負荷がかかるので邪魔をしたくない」「忙しいので時間がない」「うちはまだそんなレベルに達していない」などもっともらしいことを言いますが、本心は自分がめんどうくさいので、余計なことはやりたくないと感じているだけなのです。
現場に気を使っているそぶりを見せますが、中長期的に組織にとって「本当に必要なもの」は何かという、当事者として失ってはいけない大切な視点が欠如しているのです。
さらに考えると、マネジメントに対する真摯さ、特に本気で組織力を強化しようという思いが欠けていることに気づきます。あるべき方向に組織を動かす問題意識と行動力のなさを露呈しているも同然です。
その実体は、近視眼的・事なかれ主義という悪い意味で社内の空気を気にする〝保守派〟、あるいは、余計な仕事は増やしたくない〝楽をしたい派〟、または、やる気のない〝評論家〟といえます。
(参考サイト) プロセス見える化は手間がかかるというけれど
(導入直後の壁)
②入力がめんどうくさい
導入直後はまず、システム入力のめんどうくささが、運用開始後のハードルになります。実際SFA/CRM導入直後の入力率を測ると、だいたい60%前後からスタートします。そして、何もせず放っておくと段々入力率が下がっていき、そのうち使われなくなってしまうというパターンをたどるのが普通です。
現場が入力をめんどうくさいと感じる理由を2つ挙げておきます:
(1)目的が浸透していない
何のためにシステム導入したのかという説明が事前に十分行われず、目的が現場に浸透していないケースは多いです。現場にとっての意義やメリットが感じられないのであれば、入力をしぶるのは当然です。
また、目的が不明確だと管理したがる人の思惑で、本来意図していたのと違う使い方をされてしまうことは結構よくあります。例えば、生産性向上のためのプロセスの見える化が目的だったのに、現場の嫌がる行動管理や、結果の数字の集計ツールにすり替わってしまうといったところです。
(2)多重入力による負荷の問題
忙しい現場に同じデータの入力を何度もさせると失敗しやすいという話です。だったら、さっさとシステムをひとつにまとめればよさそうなものですが、そう簡単にはいきません。システムの技術的な連携が難しい、あるいは、費用がかかる。そういったところがネックになります。
例えば、同じような内容を異なるシステムに入れさせる。あるいは、会社名や住所などの顧客情報を複数のシステムへ入力させようとする。同じデータを忙しい現場の人間に向かって3つ以上のシステムに無理やり入力させようとすると必ず失敗します。
(参考サイト)SFA/CRMが活用されない9つの失敗パターン
(運用開始後の壁)
③データ活用がめんどうくさい
入力の壁を乗り越えて入力率が上がりデータがたまってきても、蓄積されたデータが活用されないという壁が待っています。本当は課題強化や戦略・戦術を考えるための建設的な活動分析などに使いたいのですが、せっかく入力してもらった貴重なデータなのに、分析や共有がめんどうくさいという理由で有効活用しないのは本当にもったいない話です。
使わない理由の中で最も大きいのが、「経営層やマネジャーが使わない」という問題です。文字通りの話ですが、上の方がシステムを使わなければ、下も当然使いません。営業システムの場合、経理や精算システムなどとは違い、必ず経営層やマネジャーが見るものではないので、<データ分析のフィードバックがない → 入力率が下がる → データの精度が落ちる → 分析しても意味がなくなる → さらに入力や見る人が減る → もっと使われなくなる>という悪いサイクルに陥ってしまいます。
導入時の原点に立ち戻って、有効営業時間分析のようなプロセスの見える化や、行動パターン分析にぜひ役立てたいものです。
(参考サイト)有効営業時間がどれくらいあるかご存じですか?
めんどうくさいという心理の裏側
もう一歩踏み込んで、めんどうくさい3つの壁の裏側にある心理についても触れておきましょう。冒頭で紹介した「負担をかけずに楽にデータ収集ができるような方法はないか?」という話に戻って考えます。以前ある会社で「何もせずに自然とデータが入力できるようなツールはないか?」というあまりにも非現実的な要望を、真面目な顔をして言われて困ったことがあります。
この手の発言をするタイプの人は“いい人風”なので敵はあまりつくりませんが、信念をもって現場に意見を言い説得する胆力は持っていません。与えられた仕事としてITツールや施策導入を行いますが、いずれも現場が府落ちするところまでは落とし込めないので、中途半端なところで終わってしまい本当の意味での成功までは行きつくことはできないのです。
まずは「こうあるべし」というこれまでの経験とデータに基づく角度の高い仮説= 信念を持っていないと、どんなに優れたツールを入れても永久にうまくいきません。AIなどを使っても自然と答えが出てくるわけではないのです。
将来的にAIである程度楽になる可能性は否定できませんが、AIが使えるようになるためにはビッグデータのインプットが必要なので、そこに至るまではテキストにせよ、音声にせよ何らかの入力 = めんどうくさいことが必要なのです。
めんどうくさがっていたら、大事なことはいつまでも見えてきません。めんどうくさいと感じている時、それは無意識の中で本当に大事なことと向き合っている時だと前向きにもとらえることができます。
自分の気持ちとの闘い
宮崎監督はこうも言っています。「めんどうくさいっていう自分の気持ちとの戦いなんだ」と。残念ながら、大切なことは楽ではなくめんどうくさいわけです。ITツールに入力してもらいたいのであれば、まず、現場にちゃんと向き合って、データを集める目的と目指すゴールを明確にしてきちんと説明する。目的達成のためにデータが必要なので協力してほしいと頼む。その結果として、現場の業績改善や生産性向上につながる、というメリットまで示しながら説得し“やりきる力”が求められます。
これまで1000人以上の仕事のできる人にヒアリングをして、その具体的な行動や秘訣をヒアリングしてきましたが、一番多い答えは「自分は当たり前のことをやっているだけです」というものです。仕事のできる人は誰にも真似できないような派手な特別なことをやっているわけではないのです。やるべきこと = めんどうくさいこと = 踏むべきプロセスを、コツコツと淡々と着実にやっているだけなのです。
ハッとしながらもホッとする
ちなみに、宮崎監督が文句や愚痴を言わずに黙ってめんどうくさいことをやっているかとそうではないらしいです。「あ~、めんどうくさい」とブツブツ口癖のように言いながら、はたから見ると嫌々やっているらしいです。
少々正論めいたことを書いてしまったかもしれませんが、宮崎監督の人間らしい一面を知ると、本質的な指摘にハッとしながらもホッとする面もあり、自分でもやれるかもしれない、めんどうくさがりの自分も頑張ってみようと感じるのは不思議です。
めんどうくさいと思われることの中に、本当は見逃してはいけない大切なヒントが隠れていることに気づいてもらうちょっとしたきっかけになればいいのですが・・・。現場を楽にするというまやかしの優しい気持ちでいい人ぶって、大事なことをないがしろにし、楽な方に流れても事を成すことはできません。
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2021年10月25日)