失敗分析は受けないが実は成功の大きなヒントがある
プロセスの標準化・見える化のコンサルティングを行う際に、フリクレアでは成果物として“見える化ツール”を作成します。成果を出すためにやるべきことを“標準プロセス”として定義しますが、そのひとつとして、「成功・失敗事例分析」や「成功・失敗パターン分析」をおすすめしています。
見える化ツールについて詳しく知りたい方はコチラをどうぞ↓
(コラム)プロセスを見える化するためのツール
(書籍)『営業プロセス“見える化”マネジメント』
成功より失敗の方が役に立つ
ここで強調しておきたいポイントは成功パターンだけでなく、失敗パターンの分析も行うということです。実は成功より失敗の方が役に立つのですが、成功事例は好んで紹介されるものの、失敗事例が詳しく分析されることは多くはありません。
成功事例の分析は1~2枚程度にまとめた資料を作成した経験をお持ちの方もいると思います。しかし、失敗事例についてはいかがでしょうか。それほど多くはないはずです。何かの不祥事で失敗分析報告書をまとめたことがあるかもしれませんが、関係者どまりの扱いで、組織内であまり積極的には共有されていないのが実態ではないでしょうか。
失敗分析は受けないが・・・
このように現実的には、失敗分析をやろうとするとあまり受けず、普通は嫌がられるものです。分析のために話を聞く当事者に煙たがられるであろうことは想像に難くありません。日本人はやさしいので、「失敗を責めるのはよくないのでは?」「当事者を傷つけてしまうのでは?」、ということを気にする人も少なからずいるものです。
しかし、失敗パターンの分析には、実は成功のための大きなヒント(成功を妨げるボトルネック)が隠されていることが多いのです。また、失敗の原因を分析せず放置しておけば、同じ失敗を繰り返す確率が高くなります。失敗に向き合わず同じ失敗やミスを繰り返させる方が、よほど残酷ではないかと個人的には感じます。
そこで失敗パターンの大切さを繰り返し丁寧に説明すると、「失敗パターン分析の方が成功事例作成よりもっと重要だ」という本質に気づいてもらえることもあります。
そうすると、失敗パターンの分析を行わないことのデメリット ――― 例えば同じ過ちを繰り返すことによる期待利益の損失など ――― が気になり、それまでの思い込みはどこへやら、やらない理由を見つけることが逆に難しく感じたりもするので人間の心理とはおかしなものです。
失敗に協力しやすくする仕組みを工夫
ある大手外食業では「きれいごとしか書いていない成功事例は意味がない。失敗事例の方が問題の本質をとらえられるのではるかに大切だ」との担当役員の旗振りで、過去の事例の数々を洗いざらい表に出すことになり、過去数年にさかのぼり“失敗・成功百選”をまとめました。失敗の方を先においているのは、失敗の方が学ぶことが多いという思いの表れです。
また、担当者の悪口や犯人探しにならないように、見える化とセットで導入したプロセス評価で関連する項目を設けて、過去の責任は一切問わないルールを明確にしました。さらに、失敗・成功百選の取りまとめへの協力や情報提供を、積極的に取り組むべき業務ミッションのひとつ(標準プロセス)として推奨するなど、安心して協力できる仕組みも整備しました。
「失敗の本質」― 日本軍と米軍の違い
失敗に関する名著『失敗の本質』(野中郁次郎著)が書かれた最も大きなねらいは、日本軍の特性や欠陥が今日でもなお日本のさまざまな組織に継承されているのではないかとの認識のもと、組織としての日本軍の遺産を批判的に継承もしくは拒絶することでした。(「序章 日本軍の失敗から何を学ぶか 本書のねらい」より)
同著では、日本軍と米軍の違いを「戦略」と「組織」の視点から行っています。さらに、戦略は①目的 ②戦略思考 ③戦略策定 ④戦略オプション ⑤技術体系の5つ、組織は⑥構造 ⑦統合 ⑧学習 ⑨評価の4つに分類されます。
その要旨を箇条書きでまとめると以下のようになります:
①目的
(日本軍)グランドデザインの欠如。作戦の目的があいまい。
(米軍)明確な戦略と作戦目的。目的はひとつで戦力集中が作戦の基本。
②戦略思考
(日本軍)長期的な展望を欠いた短期志向。過度に精神論が誇張された。
(米軍)変化に応じて戦略や戦術を転換・進化させる。
③戦略策定
(日本軍)主観的で情報は軽視。情緒や空気が支配する。
(米軍)客観的な事実を直視。結果をフィードバックして検証を繰り返す論理的・科学的な実証主義。
④戦略オプション
(日本軍)オペレーション(小手先の戦術・戦法)は得意だが、新しいコンセプトづくりは苦手。過去の成功体験に固執。
(米軍)成功と失敗の経験を学習、とりわけ失敗を次の作戦に必ず活かした。
⑤技術体系
(日本軍)ハードに対してソフトの開発が弱い。個人の職人芸に頼る。
(米軍)科学的管理法に基づく徹底した標準化が基本。
⑥構造(組織構造)
(日本軍)人間関係を過度に重視する情緒主義=日本的集団主義。組織の論理による異端の排除 → 独善性と閉鎖性。
(米軍)人間関係に依存せず、能力を持つものを迅速・柔軟に配置する人事システムによるダイナミックな対応。
⑦統合(組織の連携)
(日本軍)人間関係や組織のしがらみ重視の属人的な組織統合。陸・海軍は仲が悪く組織的な連携ができていなかった。
(米軍)機能分担と組織連携を実現。陸・海軍の戦略と運用を一元的に統合。
⑧(組織的な)学習
(日本軍)失敗の蓄積・伝播を組織的に行う考え方と仕組み欠如。その結果、成功・失敗パターンの理論化・反省を怠った。
(米軍) 組織学習は、一人ひとりの学習が共有~評価~統合されるプロセスを経て初めて可能になるという考え方。
⑨(人事)学習
(日本軍)年功序列、情緒主義(主観による評価)中心。個人責任の不明確さ~評価があいまい~信賞必罰が不公正。
(米軍)能力主義で、人事選定プロセスに感情が入り込む余地を排除し客観的に評価。自律性を与える代わりに、業績評価が明確。
自分の組織が失敗パターンに陥りやすいか検証する
いかがでしょうか。日本軍の悪い点が現在でも多くの会社や組織に、まるで日本人のDNAであるかのように埋め込まれているとは感じませんか?
前項で解説した『失敗の本質』の要旨を見ながら、旧日本軍のようになっていないか、自分組織は大丈夫なのかチェックするための“失敗を繰り返さないための組織風土分析シート”を用意しましたので参考までにご紹介しておきます。
(図1)を見てください。前項で要旨をまとめた【戦略】5項目 ― ①目的 ②戦略思考 ③戦略策定 ④戦略オプション ⑤技術体系と、【組織】4項目 ― ⑥構造 ⑦統合 ⑧学習 ⑨評価、を縦軸にとっています。そして、横軸に日本軍と米軍を比較しながらそれぞれの特徴や違いを並べています。
基本的には前項の「失敗の本質」― 日本軍と米軍の違いで箇条書きでまとめたことをもう少し詳しく分析した内容です。
そして、横軸の一番右|ブランクになっている列は、「自分の組織は大丈夫か? 」自分で考えながらコメントを書き込めるようになっています。
※コラムの図では見にくいかもしれません。失敗しないための組織風土分析シートをじっくり見たいやご興味があるという方に、PDF版をプレゼントしますのでよろしければ【お問い合わせフォーム】からご連絡ください。
失敗を科学する
失敗に関する名著をもう1冊引用しましょう。『失敗の科学』(マシュー・サイド著)です。その中で安全重視に関わる2大業界である航空業界と医療業界を比較。見習うべき例として航空業界、反面教師として医療業界を挙げ、過去に起こった象徴的な2つの事故を対比させながら、「失敗から学習する組織 vs 学習できない組織」の違いを示してくれています。
内容をかいつまんでご紹介しましょう。航空業界では1978年に起こった「ユナイテッド航空173便の悲劇」を分岐点にして、繰り返さないために航空安全対策の考え方が劇的に変わりました。
本の解説が目的ではないので詳細は割愛しますが、注目すべきポイントをいくつか引用しておきます:
〇失敗を個人的な問題で片づけてはいけない
〇犯人探しをしない
〇個人ではなくその裏にある仕組みや組織風土を見る
〇結果だけを見た避難や賞賛は行わない
〇ミスの報告を処罰しない。むしろ褒める方が情報が集まり分析の制度が上がる
〇失敗には特定のパターンがあるので、それを事実に基づくデータとフィードバックで解明する
〇失敗情報を教訓として活かさないのは罪。大切な事実を隠して事故が起こるたびに一から原因を追究するのは人道的に許されない
〇世界中どこの組織にも上下関係を重んじる文化が存在する。このことが、言うべきことを躊躇させ失敗の報告や共有を阻み、人道的に何より優先されるべき安全の妨げになることがあることを、失敗パターンのひとつとして意識している
ようは「事故や人的ミスの多くは、個人ではなくその裏にある組織風土やシステムによって引き起こされる」という事実を理解することから、失敗に対する考え方とアプローチが変わり、今ではジェット旅客機の事故率は100万フライトに0.23回(0.000023%)というほぼゼロに近い確率です(2014年時点のデータ)。
どんなに注意していても失敗は起こります。嘘をついたことがない人がいないのと同じように、誰でも失敗をおかします。失敗を嫌い隠すのではなく、成功への道標として見直しフィードバックを行えば、我々がどう意識や行動を変えていけばよいかを教えてくれる貴重な“事実”になります。
何か失敗が起きた時に、「この失敗の原因を検証するために手間と時間をかけるべきか?」と躊躇することは過ちだと断定できます。逆に時間や手間を惜しんだがゆえに失うものの方がはるかに大きいのです。
失敗を認めなければさらに悪化する負のサイクルに陥る
反する医療業界の事例は「エレイン・ブロメリーの悲劇」です。特に有名な人物でもないごく普通の女性の話ですが、通常は死ぬリスクなど考えられない簡単な副鼻腔炎(蓄膿症)の手術での麻酔段階での対応ミスが原因で、挽回の選択肢があったにもかかわらず医師の視野狭窄による気の動転で正しい処置がとれず、患者を死に至らしめたという本来あってはならない事故です。(私事ながら、私自身も起業前に副鼻腔炎の手術を受けたことがあったので、他人事とは思えずぞっとしました)
これだけの話ではピンと来ないかもしれませんが、このような医療ミスによる死亡被害は想像する以上に多く、米英の調査によると回避可能な医療ミス(“医療過誤”)による死亡者数は年間40万人以上、驚くべきことに10人に1人の割合で死亡しているというのです。このような医療過誤は、アメリカでは心疾患やガンにつぐ第3位の三大死因のひとつだそうです。
なぜこんなに医療ミスによる死が多いのか? 航空業界との大きな差を見てみましょう:
×医療行為を科学としてとらえていない
×失敗そのものの存在を認めない体質。患者ではなく医師側の視点で見ているため、失敗という問題さえ存在しない
×失敗から学ぶ仕組みが整っていない。ミスが起こってもそこからの学びが病院や業界で共有されない
×事故が起こっても裁判以外、事後検証を受けつけない
×失敗に関する情報が放置され進歩につながらない“クローズドループ”の状態にある
×自分たちのやり方に間違いはないという“無謬主義”
×医師に逆らえないという腫れ物に触るような扱いが、慢心を生み患者視点での謙虚な学習を阻む
×医学生はベテラン医師たちが、ミスの隠蔽は正しいことだと信じ実践している姿を見て学び、同じことを繰り返す
大きいのは失敗そのものではなく、失敗に対する「姿勢」です。医療業界には「ドクターは絶対であり完璧だ。間違うはずがない」という迷信が存在するので、「失敗は許されないどころかあり得ない」というおよそ現実とはかけ離れた考え方が前提になっているのです。
失敗を引き起こす真因は組織風土
異なる業界の相反する特徴をまとめるとこうなります。<最も大きな相違点は、失敗をどうとらえるか。そして、失敗が起こった後の対応の違いにある。医療業界には失敗を認めず言い逃れをする悪しき文化が根づいている。ミスは偶発的な事故や不測の事と捉えられ、医師は「最善を尽くしました」と言っておしまい。自分達のやり方に問題があるとは考えない。患者より自分達の方が大切だ。しかし航空業界の対応は劇的に異なる。失敗と誠実に向き合い、何より人命のために、同じミスを繰り返してはならないと真剣に考える。失敗を分析し真因を解明しそこから学ぶことを重んじている。航空業界では失敗は忌み嫌うものではなく「貴重なデータの宝の山」と考えている>。
つまり、繰り返される失敗の本当の原因(真因)は、表面的な現象である失敗やミスのもっと深いところにあるということです。失敗をどう考えるかという業界や組織の風土そのもの。これが失敗・成功パターン分析を浸透させるために最も重要なポイントになります。
以上、「失敗パターン分析はあまり世の中ではもてはやされませんが、皆さんが考えている以上に効果がある」という切り口で解説しました。最初読み始めた時はよくある教科書的な話ではなく普段あまり論じられないので、「失敗パターン分析と言われてもね・・・?」とピンとこなかったかもしれません。このコラムを読み終えた後で、「こういう見方もあるな」とこれまであまり意識していなかった失敗分析の効用に気づき、心のどこかに引っかかっている何かを見直す小さなきっかけにでもなれば幸いです。
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今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
組織風土分析シートを使って自分の組織を振り返った方から、感じになったことなどを共有いただけると有難いです。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2021年05月25日)