勘違いの人財育成
成果主義の弊害により、人財育成がおろそかになっているというお悩みが多いようです。そこで、若手の育成について考えてみます。
人財育成を学校のクラブ活動に例えてみましょう。サッカー部に未経験の生徒が入部してきたとしたら、普通はいきなりレギュラーとして起用しませんよね。まずは球拾いなども経験させ、その後、キック、トラップ、シュート、ヘディングなどの基本技術を教えていきます。技術だけが上達すればいいわけではないので、ルールやマナーを教えることも大切です。
ところが、社会人になると「即戦力」という都合のよい言葉を使って、本来行うべき最低限のトレーニングも行わないまま、いきなりビジネスの現場に放り込むことがよくあります。あるいは、トレーニングするにしても、成果を生み出すことには何の効果もない地獄の特訓のような精神修行を行って洗脳に務めたりするケースもいまだにあります。
反面教師としてカリスマ経営者のもと急成長を遂げた後、経営がおかしくなってしまったあるIT企業の悪い例をご紹介しましょう。
この会社では、新人を大声で挨拶をさせるところから教育を始めますが、少しずつおかしくなっていきます。
挨拶が一応できるようになると、敢えて飛び込みをさせ、名刺を集めさせます。ちなみに、この会社は表では「飛び込み営業は非効率である」として否定しているのですが……?
その後は、「先輩の言うことに対しては理不尽なことを指示されても絶対服従」という今時珍しいスパルタ方式による精神教育が1ケ月間毎朝続きます。
こういった体験や精神訓練という段階を経て、いよいよビジネスの基本的な進め方に入っていくはずですが、この会社の教育はどういうわけかここで突然終わります。
そして、経営者は「教育しても人は育たない。育つ人間は自分で育つ。牛を馬にはできない」と、突然これまでとはまったく違うトーンで宣言。「君たちは即戦力なのだから、自力でどんどん頑張ってくれ。期待してるぞ」と言って、新人たちをビジネスの最前線に送り出していくのです。
そんな新人たちにどれほどの仕事ができるでしょうか。ビジネスの肝心なやり方を教えられていない迷える子羊新人たちは、大きな声のあいさつと理不尽には何とか耐えられる精神力という今の時代竹やりのような武器だけを手に、ビジネスという戦場にかりだされていくのです。
そうして、自分は若くして仕事を任せてもらっているのだという根拠のない自信だけをよりどころに、取引先や会社の先輩達に迷惑をかけながら、“ナンチャッテ”新人レギュラーとして“迷”プレーを披露していくのだそうです…(あ~。くわばらくわばら)。)
(2010年05月28日)