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なぜ人を評価するのか
そもそも「なぜ人事評価を行う必要があるのか?」という基本的なテーマについて考えみることも大切ではないかと感じます。なぜならば、新しい人事評価制度を設計する際に、課題や目的を明確にしていないと枝葉の論議に陥りがちで、本来めざすべき方向からずれてしまうケースがあるからです。
人事評価の目的としては、以下のように「人を育て会社に貢献してもらう」ということが答えとして挙げられます。
(1)社員一人ひとりの強みと弱みを客観的に判断して人財を育成する
(2)報酬で公正に報いることにより、社員のモチベーションを高め、更に能力を発揮してもらう
(※ここでの報酬とは、物理的な報酬と心の報酬の双方を指します。物理的な報酬とは、昇給や昇格など。心の報酬とは、自己存在の肯定感、組織内での承認・賞賛、成長感、仕事のやりがいなど。)
(3)その結果として、業績の継続的向上や経営課題の解決につなげる
しかし現実的には、以下のような金銭的要素が目的化してしまっているケースが少なくありません。
(4)賃金・賞与の配分やコントロール
(5)人に優劣をつけて、昇進させる人間を選別する
(6)仕事をちゃんとしない、あるいは言うこと聞かない人に罰を与える
更に気になるのが、社員が最も気にしているのになぜか抜け落ちている
(7)人を動かすためのマネジメント手段 という視点です。
人事評価は「究極のマネジメント手段」です。「マネジメントそのものだ」とも言えます。なぜならば、人事権を持たない社員、例えば他部署の上司、同僚や部下が人どんなに正しいことを言っても、人は動いてくれないからです。組織で働く人間は人事権を持つ者の本音をうかがいながら求めているものを敏感にかぎ分け、多少間違っていると知りながらも、できるだけその意向に沿うように行動します。少しでも自分の処遇をよくしてもらうために。少なくとも職を失わないために。
人事評価をうまく使えば、社員を会社が進むべき方向にマネジメントすることができるのに、この視点を忘れている会社があまりにも多いのが残念でなりません。
私自身は人事評価の目的を「人財育成を通じて業績の継続的向上を支え、物理的な報酬の適正化と心の報酬の充実を図るツール」と定義しています。順序としては、あくまでも人財育成 業績向上が先であり、報酬は結果的なものという位置づけです。
人事評価が本来目指すべきは、社員の仕事のやりがいやモチベーションという「心の報酬を充実」させることにより働く意欲を高め、「健全な成長を支え能力を引き出す」。そして、社員に自発的・能動的に働いてもらうことにより「業績の継続的向上」をめざす。結果として達成できた利益を公正に配分し、「物理的な報酬を適正化し、心の報酬も充実させる」ことにより、更なるスパイラルアップに導くことです。
人事評価は決して、人件費の抑制やコントロールが目的であってはなりません。成果主義は「頑張って成果を上げれば、その分給料が増える。若い人のモチベーションも上がる」というふれこみで導入されました。しかし表向きの理由とは別に、将来的な人件費の膨張を防ぐという、いわば「人件費の抑制のため」という裏の目的が強すぎました。そのため「成果主義」については、きれいな言葉でどう繕おうとしても「人件費削減あるいはリストラのためのツール」というネガティブなイメージが社員たちの心に根づいてしまっています。
目的をはき違えると、どんなによい人事評価制度をつくってもうまく機能しません。結果的に形骸化したり、評価基準のダブルスタンダードができたりします。表面的な成果だけに目を奪われ、人間性コンテストに陥りがちです。チームワークが失われ、人財育成もおざなりになります。人事評価をうまく活用しなければ、企業の弱体化へつながります。
人事評価は経営トップや組織長の本音を反映します。社員は評価の結果や実際の処遇をよく見て学習していて、経営者の本音や評価マニュアルには出ていない真の評価基準を強く意識しています。社員は評価に裏に隠された本音のメッセージを敏感にかぎとるのです。そして、自分の身を守るにはどう行動するのが賢いのかを判断します。
『人事評価は組織文化を写す鏡』なのです。
(2012年10月05日)