抵抗勢力を巻き込む ― プロセス主義®をどうやって浸透させるか(4)
「プロセス主義®を組織にどうやって浸透させるか」というテーマについて、3回連続でお伝えしてきましたが、今回はそのシリーズの最終回です。
(1)普及ラインとキャズム → (2)社内浸透度を高める → (3)抵抗勢力が反対する理由 という流れで解説してきましたが、社内浸透度(協力者のシェア)を高め成功に近づくために、抵抗勢力をまず理解者に、そしてできれば味方にして巻き込んでいくのかという実践編です。
抵抗勢力をどうとらえるか?
わかりやすいので、「抵抗勢力」という言い方をしていますが、自分の方から「あいつは敵だ」という壁をつくっているだけで、本当の意味での抵抗勢力は「存在しない」のかもしれません。
いろいろ反対をする人は確かにいますが、必ずしも理不尽な話ばかりではありません。よく話をしてみると、その人なりに予想される事態や発生しそうな問題を真剣に考えていて、けっこうまともな見方や意見を持っている場合も多いのです。
例えば、「今の業務にこういう悪影響がある」 「変化が予想されるが、手間が増えるので大変だ」「波及効果が予測できないので心配」など、いろいろ問題点を指摘してくれます。そういう意味では「抵抗勢力」というよりは、「不安な人達」というのが正しいとらえ方かもしれません。
話を聞き、解決の方向性を一緒に探る
どうやって組織を良くするか考えるよりも、出されたアイデアに対してもっともらしい問題点を指摘して、ダメ出しする方が楽なものです。頭の中だけで考えていると、「いろいろ問題がある」ように感じるのも確かです。ですが、実際文字にして書き出し整理してみると、考えていたほどでもなかったりします。
普通はそういった意見や不安は多くても5,6くらいに集約されます。出された疑問に対して、「じゃあそれはどう対応していけばよいか」ひとつずつ一緒に考えながら相談してみてください。
みなさん「会社を良い方向に変えていきたい」という根本のところは同じはずなので、心配意見にも正対して真摯に話を続けていくと、自然に前向きな方向になってくれることも少なくありません。
実際はきれいごとだけでなく、最初は愚痴や悪口も出ます。教科書的には「そんなことを言っても仕方がないから」と、それを止めがちなのですが、それはそれで必要なプロセスなのです。
無理に止めずに最初に吐き出しておいてもらった方が、経験上はのちのちうまくいくように感じます。逆に無理に封印してしまうと、不満が心の底に残ったままなので、必ずどこかで爆発してしまうのです。
会社や組織を良くしようと思っている人であれば、そのうち自分の方から「いつまでもこんなことを言っていても、何も改善しませんね」と気づき、建設的な雰囲気に変わっていくケースも間々あります。
「否定せずに、ちゃんと自分の意見を聞いてくれた」という受容感が感じられるプロセスが考えている以上に重要なのです。
抵抗する意見は現場から出がちですが、違う意見にも正対していくと、現場からでしか出ないような現実的な解決案も提案してくれるようになります。それをちゃんと拾って解決策を練っていくと、最初反対意見を言っていた人が逆に味方として助けてくれるようになったりもします。説明や情報が不足しているために不安になり、それがもとで反対派になっている場合もあるのです。
ようは、変に敵視せず、抵抗勢力 / 反対派の人達を味方につけた方が得だということです。抵抗勢力の中にはしっかりとした意見を持っている人も多いので、敵にすると手ごわいですが、味方につければ、従順でおとなしい協力者より、かえって心強い協力者になってくれる場合もあるのです。そうなると鬼に金棒という感じで、協力者を増やし社内浸透度を高めるのが楽になります。
抵抗勢力をどうやって巻き込むか解説してきましたが、ここからはそれを踏まえた上で、4回シリーズのテーマである「プロセス主義®をどうやって浸透させるか」について、シリーズ(1)~(3)コラムで紹介した考え方や用語なども活用しながら、あらためてまとめてみることにします。
まずは、変革のチームづくり
まず重要なポイントとしては、「旗振り役」(イノベーター)を中心に、プロセス主義®という新しいツールを導入し、変革を起こす連帯チームをつくることです。
イノベーターやオピニオンリーダーという横文字だと、心に刺さりにくく、違うニュアンスでとらえられる可能性もあるので、ここでは「旗振り役」と呼ぶことにします。
旗振り役は、社内マーケティングのできる、誰もが認めるエース級のできる社員 を選ばなければなりません。ただし、新しいツールの導入やそれに伴う変革は、一人の強力なリーダーシップを持った人間だけでもたらされるものではありません。旗振り役に加え、適切なメンバー選定による連帯チームの存在が不可欠となります。
旗振り役と連帯チームができたら、社内マーケティング用のわかりやすい「説明ストーリー」(資料やトークスクリプト)をつくります。
次に、理解してくれそうな協力部署や協力者の候補(アーリーアダプター)を名前入りで挙げて、どの人にどういう順番でどのタイミングで説明して巻き込んでいくか作戦を練ります。できればターゲットリスト、あるいは、攻略マップを作成します。抵抗しそうな人がいれば、それも入れます。
その上で、社長や担当役員にまずお墨付きをもらいます。社内の関係ラインの承諾を予め得た上で、パイロットに協力してもらう部署の責任者やキーマンにアプローチするのが効果的です。
次に、スモールスタート
プロセス主義®にかぎらず、新しいツールを入れる際は、「スモールスタート」をおすすめします。一気に全社導入を目指すのではなく、まず部署や人数を限って「パイロット導入」を行うのです。
「旗振り役」の考え方を、本当に自社に合うのかスモールスタートでテストしながら、呑み込みの早い連帯チームとパイロット部署に良さを実感して社内で噂を広めてもらいます。シリーズ(1) 普及ラインとキャズムで紹介した普及ライン(16%)を目指す考え方です。
ここで「小さな成功」(スモールサクセスやクイックウィン)という実績が出せると、多数派の中で、自分で先頭を走る勇気はないものの、新しい良いものを取り入れることにあまり抵抗のない多数派(アーリーマジョリティ)が、噂を聞きつけ空気を読みながらもゆっくりとフォローし始めます。
浸透度を測って見える化する
そのため、「小さな成功」をつくるために関係者が全力で支えます。この過程やパイロット後の横展開で現れる抵抗勢力にも正対しきちんと説明しながら、少なくとも邪魔はしないように諭しながら巻き込んでいきます・・・・・
このような流れで抵抗勢力を含む関係者をバイネームで特定し、スケジュール案もつくって進捗を測り、見える化するのです。
社内浸透度(協力者シェア)を測りながら、3% → 7% → 11% → 19%という「シンボル数値」を目安に、徐々に上げていくイメージです。
変革チームで進捗を、「社内浸透度が〇%くらいになった」「キャズム(16%)を超えた」「20%になって、だいぶプロセス主義も浸透してきた」など、数値化してコメントしながら見ていくのも楽しいものです。
上位2割ぐらいに広まると、そこから浸透するスピードがアップしますので、残りの多数派(レイトマジョリティー)のレベルを合わせていくために、社内関係部署(事業部の企画・総括部署、人事部署、IT部門など)も、阻害要因を取り除くサポートをしながら、変革の動きを支援していくことが求められるようになってきます。
こんな感じで、協力者シェアを増やしながら、「社内浸透度」を高めていくわけです。
社内浸透のためのマーケティング
最後にもう一度、新しいツール(プロセス主義®)を導入~浸透させていくためのプロセスをおさらいします。
①効果を証明するために、パイロットによる「スモールスタート」で、できるだけ早い時期に「小さな成功」を創り出す。そのために、最初は簡単にできることを着実に行う。成功の条件も事前に定義しておく。
②理解してくれそうな多数派には、丁寧な説明を繰り返し、少しずつ変化を経験してもらう。その中で、まず不安や誤解を解き、メリットを実感し、本質に気づいてもらう。
③保守的な多数派にも、「やはりこういった新しいマネジメント法やツールは必要だな」と、外堀を埋めながら感じてもらう。
このように変革の原則に則ったアプローチをとり、有効性を社内マーケティングでうまく広めることができれば、組織内で余計な軋轢を起こさないので、比較的スムーズにモノゴトを進めることが可能になります。
本来解決しなければならない課題に向き合ってこなかった多数派の人達も、本質的な課題やその解決方法に気づきやすくなります。そうするうちに社内浸透度が上がり、ムードが変わり、みんなの方向性が合ってくるというわけです。
こういった、社内マーケティングの考え方は、プロセス主義®だけでなく、新しいことを社内に導入~浸透させる際の普及活動にも大変有効です。
ただし、ITシステムや人事評価などが変革の邪魔をするので油断は禁物です。
変革のプロセスについての詳細は、「8つの変革プロセス(上)」&「8つの変革プロセス(下)」を参考にしてください。
以上、「プロセス主義®をどうやって浸透させるか」というテーマについて、4回にわたって深掘りしてきました。
ここまでのシリーズ(1)~(3)も、よろしければもう一度どうぞ ↓
普及ラインとキャズム ― プロセス主義®をどうやって浸透させる(1)
社内浸透度を高める ― プロセス主義®をどうやって浸透させるか(2)
抵抗勢力が反対する理由― プロセス主義®をどうやって浸透させるか(3)
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2022年04月25日)